導入前に押さえたい!裁量労働制の5つの基本要件
IT企業
スタートアップ
KING OF TIME
労働時間コンサルティング
労務相談
2026.08.30
「優秀な社員には、時間ではなく成果で働いてほしい」 「専門職の勤怠管理が、実態に合っていない気がする」
こうした問題意識から裁量労働制の導入を検討する企業が増えています。一方で、要件を満たさないまま運用してしまい、後から未払い残業代を一括で請求される――そんなトラブルも後を絶ちません。
裁量労働制は「導入すれば残業代がかからなくなる制度」ではありません。法律で定められた要件を1つでも欠けば、制度そのものが無効となり、通常の労働時間制に戻って計算し直すことになります。
この記事では、導入前に必ず押さえておきたい5つの基本要件を、実務目線で整理します。
そもそも裁量労働制とは
実際に働いた時間ではなく、あらかじめ労使で定めた「みなし労働時間」を働いたものとみなす制度です。1日のみなし時間を8時間と定めれば、実際に6時間でも10時間でも、8時間働いたものとして扱われます。
裁量労働制には2つの種類があります。
| 専門業務型 | 企画業務型 | |
|---|---|---|
| 根拠条文 | 労基法38条の3 | 労基法38条の4 |
| 対象業務 | 法令で定める20業務 | 事業運営に関する企画・立案・調査・分析 |
| 導入手続 | 労使協定 | 労使委員会の決議(5分の4以上) |
| 対象事業場 | 制限なし | 本社等、事業運営に影響する決定が行われる事業場 |
| 定期報告 | 不要 | 必要 |
導入のハードルは企画業務型のほうが高く設定されています。
要件① 対象業務に該当していること
最初の関門であり、最もつまずきやすいポイントです。「裁量が大きい仕事だから」という理由だけでは導入できません。
専門業務型:20業務に限定
- 新商品・新技術の研究開発
- 情報処理システムの分析・設計
- 記事の取材・編集
- デザイナー(衣服、室内装飾、工業製品、広告等)
- 放送番組・映画等のプロデューサー、ディレクター
- コピーライター
- システムコンサルタント
- インテリアコーディネーター
- ゲーム用ソフトウェアの創作
- 証券アナリスト
- 金融工学等の知識を用いた金融商品の開発
- 大学における教授研究
- 銀行・証券会社におけるM&Aアドバイザー業務(2024年4月に追加)
- 公認会計士、弁護士、建築士、不動産鑑定士、弁理士、税理士、中小企業診断士
システムエンジニアであれば何でも対象になるわけではなく、プログラミングのみを担当する場合や、運用・保守が中心の場合は対象外と解されています。職種名ではなく、実際の業務内容で判断される点に注意してください。
企画業務型:4つの要件をすべて満たす業務
- 事業の運営に関する事項についての業務であること
- 企画、立案、調査および分析の業務であること
- 業務の性質上、遂行方法を大幅に労働者の裁量に委ねる必要があること
- 遂行手段や時間配分の決定等に関し、使用者が具体的な指示をしないこと
定型的な事務処理や、上司の指示に沿って資料をまとめるだけの業務は該当しません。
要件② 労使協定・労使委員会決議と、労基署への届出
制度は「会社が決めれば始められる」ものではなく、必ず労使の合意手続を経る必要があります。
専門業務型の場合
過半数労働組合(ない場合は過半数代表者)と労使協定を締結し、所轄の労働基準監督署へ届け出ます。協定には対象業務、みなし労働時間、健康・福祉確保措置、苦情処理措置、本人同意に関する事項などを定めます。有効期間は3年以内とすることが望ましいとされています。
企画業務型の場合
労使同数で構成する労使委員会を設置し、委員の5分の4以上の多数で決議したうえで届出を行います。加えて、実施状況の定期報告が必要です(初回は決議日から6か月以内、その後は1年以内ごと)。
忘れがちなのが就業規則
労使協定・決議とは別に、就業規則にも裁量労働制に関する規定を設ける必要があります。実務上、ここが抜けたまま運用されている例は少なくありません。
要件③ 本人の同意取得と、同意撤回の手続
2024年4月の改正により、専門業務型でも対象労働者本人の同意が必須になりました(企画業務型は従来から必須)。制度の適用は、いわば「会社と本人の個別合意」の上に成り立ちます。
押さえるべきポイントは3つです。
- 同意しないことを理由とする不利益取扱いは禁止 評価や配置で不利に扱えば、それ自体が違法となります
- 同意の撤回手続を定めることが必須 誰に、どのような方法で撤回を申し出るのか、撤回後はどの労働時間制が適用されるのかまで明確にしておきます
- 同意・撤回に関する記録の保存義務 誰がいつ同意し、いつ撤回したのかを記録として残す必要があります
同意書のフォーマット整備と、入社・異動のタイミングで確実に同意を取得する社内フローの設計が、運用の要になります。
要件④ みなし労働時間の設定と、実質的な裁量の確保
みなし労働時間は「実態に即して」
みなし時間は自由に決められるわけではなく、業務の実態に見合った水準にする必要があります。実際は毎日11時間働いているのに、みなし時間を8時間としているような設定は、制度の趣旨に反します。
みなし時間を1日8時間超に設定する場合は、36協定の締結と時間外割増賃金の支払いが必要です。
みなされるのは「労働時間の長さ」だけ
ここは誤解が非常に多いところです。裁量労働制でも、次のものは通常どおり適用されます。
- 休憩の付与
- 深夜割増賃金(22時〜翌5時)
- 休日割増賃金(法定休日労働)
- 年次有給休暇
「裁量労働制だから深夜手当は不要」という運用は誤りです。
具体的な指示をしないこと
業務の遂行手段や時間配分は、労働者に委ねる必要があります。
- 始業・終業時刻を指定する
- 出社時刻を拘束し、遅刻として扱う
- 業務の進め方を細かく指示・管理する
こうした運用があると、「実際には裁量がなかった」と判断され、制度が無効となるリスクがあります。ただし、業務量が過大にならないよう配慮することは使用者の責務であり、放任してよいという意味ではありません。
要件⑤ 健康・福祉確保措置と苦情処理措置
2024年改正で最も強化されたのが、この健康確保の部分です。
措置は「2つの区分から」選ぶ
健康・福祉確保措置は、事業場全体に対する措置と、個々の対象労働者に対する措置の各区分から、それぞれ1つ以上を選択することが望ましいとされています。
主な選択肢は次のとおりです。
- 勤務間インターバルの確保
- 深夜業の回数制限
- 労働時間の上限設定
- 連続した年次有給休暇の取得促進
- 医師による健康診断の実施
- 心とからだの健康に関する相談窓口の設置
- 代償休日・特別休暇の付与
- 配置転換
- 産業医等による助言指導、保健指導
前提となるのが労働時間の状況把握
そもそも健康確保措置を機能させるには、対象者が実際に何時間働いているかを把握していなければ始まりません。労働安全衛生法により、客観的な方法による労働時間の状況の把握が義務づけられています。「みなしだから記録は不要」ではない点に注意してください。
苦情処理措置も具体的に
窓口の設置場所、担当者、申出の方法、処理の手順までを定め、対象労働者に周知します。形式的に「人事部を窓口とする」とだけ書いて運用実態がない、という状態は避けたいところです。
導入前チェックリスト
- [ ] 対象としたい業務が、法令上の対象業務に実態として該当するか
- [ ] 労使協定(または労使委員会決議)の締結・決議は済んでいるか
- [ ] 労働基準監督署への届出は完了しているか
- [ ] 就業規則に裁量労働制の規定を設けたか
- [ ] 本人同意書のフォーマットと取得フローを整備したか
- [ ] 同意撤回の手続を定め、周知したか
- [ ] みなし労働時間は業務実態に見合っているか
- [ ] 深夜・休日割増賃金の計算ロジックを設計したか
- [ ] 健康・福祉確保措置を2区分から選択したか
- [ ] 労働時間の状況を客観的に把握する仕組みがあるか
- [ ] 苦情処理の窓口と手順を具体的に定めたか
おわりに
裁量労働制は、正しく設計・運用すれば、専門性の高い人材が自律的に成果を出せる環境をつくる有効な仕組みです。一方で、要件を1つでも欠けば制度全体が無効となり、遡っての残業代精算という重いリスクを負うことになります。
なお2026年現在、対象業務の拡大を含む制度の見直しが労働政策審議会で議論されています。導入を検討する際は、最新の法改正動向もあわせて確認しておくと安心です。
自社での適用可否の判断に迷う場合は、社会保険労務士など専門家への相談をおすすめします。
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する法的助言ではありません。
社会保険労務士法人秋田国際人事総研
東京都千代田区神田佐久間町3-19
東邦沢口ビル5階
(アクセス)
JR秋葉原駅より徒歩7分
東京メトロ秋葉原駅より徒歩3分
↓↓↓↓↓フォームメールでのお問合せはこちら↓↓↓↓
https://akita-sr.com/contact/

