労働条件通知書の電子交付|必要な条件と実務の注意点
IT企業
スタートアップ
プラットフォーム
宿泊業
歯科医
病院・クリニック
私立学校
美容業
製造業
労務監査
労務相談
2026.10.24
採用や契約更新のたびに紙の書類を印刷して郵送するのは、手間がかかりますよね。労働条件通知書の電子交付に切り替えたいけれど、法令上どこまで認められているのか分からないとお悩みの方も多いはずです。
実は、電子交付は条件付きで認められています。ただし、条件を満たさずに送ると、適切な明示にならないおそれがあります。
この記事では、電子交付の条件と運用の注意点を整理します。
なぜ今、労働条件通知書の電子交付を見直す企業が増えているのか
労働条件通知書の電子交付を検討する企業が増えている背景には、採用手続きのオンライン化と、明示ルールの改正があります。
採用や契約更新をオンラインで完結させたい
面接から内定までをオンラインで行う企業が増えました。その流れで、内定後の書類だけが紙のまま残っているケースが目立ちます。
テレワーク中心の職場では、印刷や押印、郵送のために出社が必要になることもあります。人事担当者の負担を減らすうえで、通知書の電子化は効果の大きい取り組みです。
なお、労働条件の明示方法については、政府の規制改革の議論でも取り上げられています。厚生労働省で、電子メール等による明示をより円滑にする条件や方策が検討されている段階です。現時点では、後述する現行のルールに沿って運用する必要があります。
明示事項の追加で、通知書の内容も見直しの時期
2024年4月から、すべての労働者について就業場所と業務の「変更の範囲」が明示事項に加わりました。有期契約の労働者には、更新上限の有無と内容、無期転換の申込機会などの明示も必要です。
詳しくは厚生労働省の「2024年4月から労働条件明示のルールが変わります」をご確認ください。
さらに、パートタイム・有期雇用労働者については、2026年10月1日施行の改正で、雇入れ時の明示事項が追加されています。概要は山梨労働局の「パートタイム・有期雇用労働者に関するルールが変わります」で確認できます。
様式を改める機会に、交付の方法もあわせて見直すと、手戻りが少なくなります。

労働条件通知書の電子交付で起きやすい落とし穴
電子交付そのものは難しくありません。つまずきやすいのは、法令上の条件の確認と、交付後の確認の2点です。
「労働者の希望」を確認しないまま送ってしまう
労働基準法施行規則では、書面での明示が原則とされています。電子メール等で明示できるのは、労働者が希望した場合に限られます。
厚生労働省は、労働者の希望を個別かつ明示的に確認することが望ましいとしています。全員に一律でメール送付と決め、希望を確かめないまま送る運用には注意が必要です。
希望がないのに電子メール等だけで明示した場合は、法令違反となるおそれがあります。労働条件の明示義務の違反には、30万円以下の罰金が定められています。
届いたか、保存できるかを確かめていない
電子メール等による明示は、労働者が出力して書面を作成できるものに限られます。本文にだけ条件を細切れに書く方法は、印刷したときに内容が途切れるため望ましくないとされています。
よくある落とし穴は次のとおりです。
- 迷惑メールの設定などで、届いていても本人が読めていない
- SNSのメッセージで送り、保存期間が切れて見られなくなった
- 第三者も閲覧できる場所に掲載して、明示したつもりになっている
- SMSで送り、ファイルを添付できないため内容が不十分になった
ブログなど第三者の閲覧を目的とした場所への掲載は、明示の方法として認められていません。SMSは禁止されていないものの、望ましくない方法とされています。
労働条件通知書の電子交付を進める実務対応のポイント
結論として、法令上の条件を満たすことと、社内の手順を決めておくことの両方が欠かせません。
法令上の条件を表で整理する
まずは、現行の条件を一覧にして社内で共有しましょう。
| 確認項目 | 内容 |
|---|---|
| 原則 | 書面の交付による明示 |
| 電子交付ができる場合 | 労働者が希望した場合 |
| 認められる方法 | FAX、電子メールやWebメール、SNSのメッセージ機能など |
| 方法の条件 | 労働者が出力して書面を作成できるもの |
| 望ましくない方法 | 本文での細切れの記載、SMS |
| 認められない方法 | 第三者の閲覧を目的としたブログなどへの掲載 |
方法の具体例は、厚生労働省のリーフレットにまとめられています。詳しくは「平成31年4月から、労働条件の明示がFAX・メール・SNS等でもできるようになります」をご覧ください。
社内の運用ルールを決めておく
条件を満たしていても、手順が人によって違うとトラブルのもとになります。次の点を決めておくと安心です。
- 希望の確認方法と、その記録の残し方
- 送付の形式(PDFの添付など)
- 明示した日付、送信担当者の氏名、法人名、使用者名の記載
- 受信と内容の確認を本人から返信してもらう手順
- 本人に印刷や保存をお願いする案内文
- 希望しない人に書面で交付する手順
よくある状況をもとにしたモデルケースで考えてみます。ある企業では、内定者全員に電子契約サービスで通知書を送っていました。ところが、内定承諾の画面に希望の確認欄がありませんでした。
そこで、内定承諾の前に「電子での受け取りを希望しますか」と確認する欄を設けました。希望しない人には書面を郵送する流れに改めています。
雇用契約書を電子契約で結ぶ場合も、労働条件の明示にあたる部分は同じ考え方で扱います。電子化の進め方は、詳しくはこちらの記事もご参照ください(【内部リンク:人事労務書類の電子化の進め方に関する記事】)。
専門家である社労士の視点
労働条件通知書の電子交付は、交付の方法だけでなく、記載内容の正確さとセットで考えることが大切です。電子化を機に、通知書の内容と就業規則や実態との食い違いが見つかることがよくあります。
自社で対応できる範囲と、専門家に相談したほうがよい場面の目安は次のとおりです。
| 区分 | 主な内容 |
|---|---|
| 自社で対応できる範囲 | 希望の確認欄の追加、送付形式の統一、受信確認の手順づくり |
| 専門家に相談したほうがよい場面 | 変形労働時間制や裁量労働制など、労働時間の記載が複雑な場合 |
| 専門家に相談したほうがよい場面 | 有期契約の更新上限や無期転換の記載を見直す場合 |
| 専門家に相談したほうがよい場面 | 通知書の内容が就業規則や実際の働き方と合っていない場合 |
特に労働時間の記載は、割増賃金の計算にも関わります。労働時間制度の見直しをお考えの場合は、労働時間制度のコンサルティングのページもご覧ください。
よくある質問(FAQ)
労働者の希望は口頭で確認すれば足りますか?
口頭でも法令上の要件を欠くとは限りませんが、記録が残る方法での確認をおすすめします。後から「希望していない」と言われた場合に、確認したことを示せないためです。
厚生労働省も、希望を個別かつ明示的に確認することが望ましいとしています。内定承諾書やWebフォームに確認欄を設けるなど、確認と記録を同時に済ませる方法が実務では使いやすいでしょう。
電子契約サービスで送ってもよいですか?
労働者が希望し、内容を出力して書面にできる形であれば、電子契約サービスを使うことも考えられます。ただし、労働条件通知書の電子交付の条件は、送る手段にかかわらず同じです。
希望の確認、受信の確認、保存のお願いという手順は変わりません。サービスによって閲覧期間や保存の仕組みが異なるため、本人が手元にファイルを保存できるかを事前に確かめておくと安心です。
一度電子で受け取った人から、紙がほしいと言われたら?
その場合は、書面で交付する対応をとるのが望ましいでしょう。電子交付は労働者の希望を前提とした方法のため、希望が変わったときに柔軟に対応できる体制が大切です。
あらかじめ、紙での交付を求められた場合の手順を社内で決めておくと、担当者が迷わずに済みます。また、契約更新のたびに希望を確認し直す運用にしておくと、行き違いを防ぎやすくなります。
まとめ
労働条件通知書の電子交付は、労働者の希望と、出力して書面にできる方法という2つの条件を満たせば行えます。
押さえておきたい点を振り返ります。
- 書面の交付が原則で、電子交付は労働者が希望した場合に限られる
- 送付はPDFの添付など、印刷して保存できる形にする
- 希望の確認、受信の確認、保存のお願いを手順として決めておく
- 明示事項の追加にあわせて、通知書の内容も見直す
労働条件通知書の電子交付は、手順を整えれば人事の負担を減らせる取り組みです。まずは自社の通知書と交付の流れを点検するところから始めてみてください。
通知書の記載や労働時間制度との整合に不安がある場合は、ぜひご相談ください。支援内容は労働時間制度のコンサルティングのページでご確認いただけます。関連する記事もあわせてご覧いただき、自社の状況に合う進め方を知りたい場合は、無料相談をご利用ください。
【免責事項】
本記事は、2026年10月時点の法令および公的機関の公表情報にもとづき、一般的な情報の提供を目的として作成しています。
法改正や通達の変更などにより、内容が最新の取扱いと異なる場合があります。
個別の事案への当てはめは、会社の状況によって結論が変わります。実際の対応にあたっては、専門家へご相談ください。
本記事の情報を利用した結果について、当法人は責任を負いかねますので、あらかじめご了承ください。
社会保険労務士法人秋田国際人事総研
東京都千代田区神田佐久間町3-19
東邦沢口ビル5階
(アクセス)
JR秋葉原駅より徒歩7分
東京メトロ秋葉原駅より徒歩3分
↓↓↓↓↓フォームメールでのお問合せはこちら↓↓↓↓
https://akita-sr.com/contact/
