医師の時間外労働上限規制、施行3年目に見直したい3つのポイント
病院・クリニック
KING OF TIME
労働時間コンサルティング
労務相談
2026.10.16
外来と病棟、当直まで回すだけで手一杯なのに、医師の時間外労働の管理まで気を配るのは大変ですよね。上限規制が始まって2年半がたち、「対応済み」という医療機関も多いと思います。
ただ、当初のルールが、いまの勤務実態と合っているとは限りません。宿日直や自己研鑽の扱いが、現場で少しずつずれている例はよく見られます。
この記事では、施行3年目のいま、経営者として見直しておきたい3つのポイントを整理します。
なぜ今、医師の時間外労働を見直す必要があるのか
結論から言うと、制度開始時の設計と運用の実態がずれやすい時期だからです。
医師の時間外・休日労働の上限規制は、2024年4月から適用されています。2026年10月の時点で、施行から3年目に入りました。
施行から2年半、運用の「ずれ」が出やすい時期
施行直前は、多くの医療機関が36協定の締結や宿日直許可の取得を急ぎました。その後、医師の入れ替わりや診療体制の変更が重なり、当初の前提が変わっていることがあります。
たとえば、次のような変化です。
- 常勤医の退職で、残った医師の当直回数が増えた
- 救急の受入れを増やし、当直中の診療が増えた
- 非常勤医の確保のため、副業・兼業の医師が増えた
どれも珍しい変化ではありません。しかし、ルールを見直さないままにすると、医師の時間外労働の集計に漏れが出るおそれがあります。
労働基準監督署と都道府県、2つの方向から確認される
医師の働き方は、2つの法律の面から確認されます。
労働基準法の面では、労働基準監督署が36協定、労働時間、割増賃金の支払いなどを確認します。医療法の面では、都道府県などの立入検査で、面接指導や休息時間の確保が確認事項とされています。
水準ごとの上限は、次のとおりです。
| 水準 | 主な対象 | 年間の上限(時間外・休日労働) |
|---|---|---|
| A水準 | 一般的な医療機関の医師 | 960時間 |
| 連携B水準 | 医師を派遣する病院 | 通算1,860時間(各院では960時間) |
| B水準 | 救急医療などを担う病院 | 1,860時間 |
| C-1水準 | 臨床研修医・専攻医 | 1,860時間 |
| C-2水準 | 高度な技能の修得を目指す医師 | 1,860時間 |
月の上限は、原則として100時間未満です。面接指導などを条件に例外が設けられています。B水準と連携B水準は、2035年度末を目標に解消を目指すとされています。
詳しくは厚生労働省の「医師の働き方改革」をご確認ください。
見落としやすいポイント1・2
上限の数字を守っているつもりでも、数える範囲そのものが漏れていることがあります。ここでは特に見落としやすい2点を取り上げます。
ポイント1:自己研鑽と副業・兼業の時間が把握から漏れている
自己研鑽が労働時間にあたるかは、使用者の指揮命令下にあるかで判断します。所定労働時間内に、指定された場所で行う研鑽は労働時間です。
所定労働時間外でも、上司の明示や黙示の指示がある研鑽は労働時間になります。「勉強のために残っている」と一律に扱うと、医師の時間外労働を少なく数えてしまうおそれがあります。
厚生労働省の通達では、労働時間にあたらない研鑽について、次のような手続きの例が示されています。
- 医師が、労働時間にあたらない研鑽を行う旨を上司に申し出る
- 上司が、業務との関連や指示の有無などを確認する
- 申出や確認の記録を保存する
副業・兼業の時間も見落としやすい点です。非常勤先や宿日直先での勤務を、本人の申告で把握する仕組みがあるか確認しましょう。
ポイント2:宿日直許可の範囲と実態がずれている
宿日直許可を受けると、その許可の範囲で労働時間規制の適用が除外されます。ただし、許可書の人数、時間帯、回数などと実態が合っていることが前提です。
宿日直中に通常と同じ態様の診療を行った時間は、労働時間として扱われます。その時間には、宿日直手当とは別に、割増賃金を含む本来の賃金を支払う必要があります。
勤務の実態が許可の内容から大きく外れると、宿日直の全時間が労働時間とされる可能性があります。詳しくは厚生労働省の「宿日直許可取得後の労務管理」をご確認ください。
宿日直許可の申請の流れについては、こちらの記事もご参照ください。
ポイント3と実務対応の進め方
3つ目のポイントは、36協定と健康確保措置を、いまの勤務実態にそろえることです。
ポイント3:36協定と追加的健康確保措置をそろえる
医師の36協定では、水準に応じた上限時間の範囲で特別条項を定めます。医師の人数や当直体制が変わったのに、協定の時間数を見直していない例は少なくありません。
医師の36協定の考え方については、こちらの記事もご参照ください。
あわせて確認したいのが、追加的健康確保措置です。時間外・休日労働が月100時間以上となる見込みの医師には、面接指導を行う必要があります。
連携B・B・C水準の医師には、次の措置も義務とされています。A水準では努力義務です。
- 連続勤務時間を原則28時間までとする制限
- 勤務間に9時間の休息を確保するインターバル
- 確保できなかった休息を補う代償休息

院内で進められる点検の手順
医師の時間外労働の点検は、次の順で進めると整理しやすくなります。
- 直近3か月の勤怠記録で、医師ごとの時間外・休日労働を集計する
- 自己研鑽、副業・兼業、宿日直中の診療が集計に入っているか確認する
- 宿日直許可書の内容と、当直表の人数や回数を突き合わせる
- 36協定の上限時間と、面接指導の実施状況を照らし合わせる
ここまでは、院内の事務部門でも進められます。集計で上限に近い医師が見つかった場合は、早めに勤務体制の見直しを検討しましょう。
専門家である社労士の視点
社労士として感じるのは、医師の時間外労働の問題は、数字よりもルールの運用で起きやすいという点です。
自社で対応できる範囲と、専門家に相談したほうがよい場面は、次のように分けられます。
| 自社で対応できる範囲 | 専門家に相談したほうがよい場面 |
|---|---|
| 勤怠記録からの時間外労働の集計 | 自己研鑽の線引きを就業規則に定めるとき |
| 当直表と許可書の人数・回数の照合 | 宿日直の実態が許可の内容とずれているとき |
| 面接指導の対象者の洗い出し | 36協定の時間数や水準を見直すとき |
| 副業・兼業の申告様式の配布 | 未払いの割増賃金が生じているおそれがあるとき |
自己研鑽や宿日直の扱いは、個々の勤務の実態によって結論が変わります。判断に迷う場合は、就業規則や賃金規程とあわせて専門家へご相談ください。
医療機関向けの支援内容は、病院・クリニック向けサービスのページでご確認いただけます。
よくある質問(FAQ)
Q1. 医師が1人のクリニックでも、上限規制の対象になりますか?
はい、雇用されている医師であれば対象になります。院長が勤務医を1人雇っている場合も、その医師には時間外・休日労働の上限規制が適用されます。一般的なクリニックではA水準として、年960時間が上限です。一方で、管理者である院長本人の働き方は、雇用される医師と扱いが異なる場合があります。院長の位置づけや労働時間の扱いは個別の判断になるため、迷う場合は専門家へご相談ください。
Q2. 医師の自己研鑽は、すべて労働時間から外せますか?
いいえ、すべてを外すことはできません。所定労働時間内に指定された場所で行う研鑽や、上司の指示による研鑽は労働時間にあたります。労働時間から外せるのは、業務と直接関係せず、指示もなく自発的に行う研鑽などに限られます。外す場合も、本人の申出と上司の確認を記録に残すなど、手続きを決めておくことが大切です。院内のルールとして書面で定め、医師や他職種に周知しておくと運用が安定します。
Q3. 宿日直許可を取っていれば、当直中の時間は数えなくてよいですか?
いいえ、当直中に通常の診療を行った時間は労働時間として数えます。宿日直許可の効果が及ぶのは、許可された範囲の勤務に限られます。突発的な救急対応などで通常と同じ態様の業務をした時間は、時間外労働として扱い、割増賃金を含む賃金の支払いが必要です。当直中の診療時間を記録する仕組みがない場合は、まず記録の方法を整えることから始めましょう。
まとめ
医師の時間外労働の上限規制は、施行3年目に入り、制度開始時の設計と実態のずれを点検する時期に来ています。
見直したい3つのポイントは、次のとおりです。
- 自己研鑽と副業・兼業の時間を、把握の範囲に含めているか
- 宿日直許可の内容と、当直の実態が合っているか
- 36協定と追加的健康確保措置が、いまの勤務体制に合っているか
まずは直近3か月の記録で、医師ごとの時間を集計してみることをおすすめします。
医療機関向けの労務支援の内容は、病院・クリニック向けサービスのページでご覧いただけます。医師の勤務体制や宿日直の運用に不安がある場合は、無料相談でお気軽にご相談ください。
【免責事項】
本記事は、2026年10月時点の法令および公的機関の公表情報にもとづき、一般的な情報の提供を目的として作成しています。
法改正や通達の変更などにより、内容が最新の取扱いと異なる場合があります。
個別の事案への当てはめは、会社の状況によって結論が変わります。実際の対応にあたっては、専門家へご相談ください。
本記事の情報を利用した結果について、当法人は責任を負いかねますので、あらかじめご了承ください。
社会保険労務士法人秋田国際人事総研
東京都千代田区神田佐久間町3-19
東邦沢口ビル5階
(アクセス)
JR秋葉原駅より徒歩7分
東京メトロ秋葉原駅より徒歩3分
↓↓↓↓↓フォームメールでのお問合せはこちら↓↓↓↓
https://akita-sr.com/contact/

